ざぁざぁざぁ・・・・・・。
今日は一日中晴れだったはずなのに、学校から帰ろうとする私を遮るのは視界を奪おうとせん限りに強い雨だ。天気予報のばっきゃろー。
けど、そんなふうに罵った所で事態が好転するわけではない。むしろ、雨足が強まった気がする。
うん、気のせい気のせい。そんなわけないって。そもそも、強まろうがそうじゃなかろうが私が帰れないことには代わりはないのだから。
はあ・・・。
溜め息をつく。いや、もしかしたら、私を助けてくれる誰かがいるかもしれない。
周りを見渡してみる。けど、誰もいない。私が委員会の仕事をしている間に皆帰ってしまったようだ。
薄情者め! 特に約束とかしてたわけじゃないけど。
ほんと、どうしよ。
この雨の中を傘も差さずに帰る、っていう気にはならない。きっと家につく頃には下着までずぶ濡れだろう。女の子に雨は敵でしかない。
と、不意に声をかけられた。誰もいないと思ってたから本気でびびった。足の筋肉を使わずに数センチは跳べたんじゃないかと思う。
けど、物理的にも生物学的にもそんなことは出来ないので身体を震わせるに止まった。足の筋肉を使わずに跳べたらちょっとした話題くらいにはなるんじゃないだろうかと思ってただけに残念。
意気消沈しながら私振り返る。背後に見知った顔。押しつけられる折り畳み傘と走る君。はねる水。
え、と思う間もなかった。ありがとう、と言う暇もなかった。一緒に帰ろう、と叫ぶ勇気もなかった。
私はただただ呆然と立ち尽くして、傘を抱き締めるだけ。とくとく、と高鳴る胸を押さえつける。
ねえ、これは期待してもいいの? いいのかな?
よくわかんない。わかんないよ。
雨の中、君の背中を捜してみるけど、瞳に映るのは雨で白く染まる世界だけ。
消えてしまったみたいで不安になる。
・・・・・・私らしくもない。この程度のことで不安になるなんて本当に私らしくない。
帰ろう。さあ、帰ろう。こんな所に突っ立っていたって無意味なだけだ。
そう思って、私は慣れない手つきで折り畳み傘を開く。何度か変なふうに開いて焦った。なんでこんな複雑な作りをしてるんだよう!
君からの借り物なのに、私は理不尽な怒りをぶつけてた。
でも、落ち着いたからよしとしよう。
傘を掲げて雨の中に入ると、騒がしく布が叩かれる音が響く。
こんな中を無防備に走る君を想うととても申し訳なく思った。風邪、引いたりしないよね。
もしも、君が風邪を引いたりしたらこの傘はどうするべきなんだろうか。君の家に直接返しに行く?
君の家は私の家から本当に近い。秒針が一周する前についてしまうくらいだ。
でも、私にとってはそれだけの距離が月や太陽よりも遠く感じてしまう。
いつから君は宇宙の彼方へと行ってしまったんだ。歴代の宇宙飛行士たちよりも遠くに行ったんじゃないだろうか。君こそがギネスに乗るべきだ。
いやいや、何を考えてるんだ私は。
あ・・・・・・。
気が付くと、空から日が射してきていた。騒がしい音も聞こえなくなっている。
なんだ、通り雨だったのか。
ふふ、どうやら君は重大な失敗を犯してしまったようだね。あの雨の中、私と一緒に雨が止むまで待ってれば濡れずにすんだものを。
・・・・・・。
そんなことしたら、私が死んじゃうよ! 心臓が過労死するよ!
もしくは、私が青春のごとき雨の中を突っ走るか。
どちらにしても、まともな結果にはなってなかった。いや、死ぬのは結果か。でも、まともじゃないのには代わりはない。
がしゃがしゃ。
傘を閉じて、適当に折りたたむ。手がびしょびしょに濡れて、こんなもの折りたためるかー!、と投げ出したくなるけど、我慢。よかったな、傘。
と、私は足を止めてしまう。太陽に照らされる君の家が目に入ったから。
しばし逡巡。目をぱちくり。頭をかいて、傘を適当にいじいじ。
そして、深く息を吸う。湿った空気が肺を満たす。もっと美味しい空気よこせ。というわけで、ゆっくり吐いて、大気へと返却。
そして、私は向かう。宇宙の彼方。太陽や月よりも遠い場所へと。